
昨日大阪弘道氏からお呼びがあり練馬の仕事場に行ってきました。この方は1937年2月20日木工芸家として重要無形文化財保持者いわゆる人間国宝としてこのジャンルでは6番目の認定者として珍しい方です。

いわゆる職人気質・体は重病を抱えながらもコツコツと一気に仕事に集中なさる驚くべき精神力を持たれた方です。体の調子もあり、あまり外出はなく、是非完成した作品に仕覆を付けて欲しいとの依頼でした。作品の多くは正倉院御物の復元に生涯を費やされた方なので、簡単に言葉に表しては作品に申し訳ない。古い言葉で言えば「あたうを力にする」耐えてしっかり仕事をするという言葉が一番合っているように思います。この方は仕覆を注文するのも、きっちりと置き型を創り作品には一切手を触れることはできません。名物茶入を扱う時と同じです。おそらく人は苦手でしょうが私とは郷里も近くお話は尽きず時を忘れて語りあいました。質素にコツコツ木と語るお姿は美しいものでした。




二日前に馴染みの歯科医院へ行きました。部分入れ歯の装着です。今まであまり歯に問題がなかった私は初めての経験にドキドキです。Drの説明は、「まず保険治療の入れ歯を経験して1ヶ月後に歯茎が安定した所で、自費の入れ歯をつくりましょう」と説明があった。私は訳も解らぬままその選択に同意した。しかし金具のある入れ歯ですが、食べると外れる!とても恐ろしい!二回噛んでみるが無理。直ぐ電話してそのことを伝えると、「〆直すので又お出で下さい。食べる時は外して下さい。」との伝言です。私は無い知恵をフル回転してインターネットで調べた。何とそうした悩み人は多く「入れ歯専門医」まである。そのページを読むと歯の裏側にシリコンを薄く敷いて安定させる方法を実践している医院もあった。まずは「お気に入り」に登録した。

医者を変える前に山形から私のアトリエに長年通っておられる・富田歯科医院の奥様に相談した。奥様は医院の患者のサポートの仕事をしておられる方なので解りやすく説明してもえた。「奥歯の入れ歯は、ほんとうに厄介で外れやすいです。面倒ですが、食べる時は外しても歯が寄ってくるのでスキッ歯にならないように普段の装着は大切・これは傷口が癒えるまで我慢して入れて下さい」とのこと。「そうですか?矯正力だけではなく・うっかり外れた歯を飲み込むと胃から取り出さねばならなくなります。」と注意を受け納得しました。普通歯科医院の奥様は、仕事に関与しな方が多いのでいつも〝不思議”に感じていましたが、この方は素晴らしい内助で医院の大黒さま・そしてご夫妻は車の両輪なのでしょう。東京に稽古に通われているのは、単なるストレス解消だけではなく、いろいろな人の生き方を知ることにより自分のエネルギーに変えて山形へ帰り心機一転なさるのだと理解しました。そんな訳で一定期間の部分入れ歯は正しい治療であることも解りほっとしました。このような患者の悩みをゆっくり聞いてもらえる医院があれば素晴らしいと思いました。何の問題もなく褒められるばかりの歯だったので、こんな困った体験をして初めて人の歯の苦しみも理解できました。私はあまりテキパキとアドバイスなさるので「どうして知識があるの?」と聞いてみると、「姑が院長の時嫁入りしたので、やかましく鍛えられただけです。」と爽やかにお答えされる素敵な奥様です。お世話になり ありがとうございました。

永井 亜希乃著・初めての本つくり・いよいよ10月30日の発売予定となりました。親の背をみて育った子も、いつの間にか〝門前のむすめ”に成長して私は驚いている次第です。まぁ やりたいことがあり良かったと思っています。先のことを心配しても、どうしょうもないこと。自分なりの愉しみを見つけているので応援しています。この本を創るにあたり「亜希乃ちゃんにも出番を作ってあげよう」と世界文化社の中野俊一さまにお力を頂いたことに感謝しています。

基本をもう一度見直して解りやすく生活の中に役立ち残したいと思う紐結びを編集したようです。楽しそうにプランを練っていたので、「好きなんだな」とこれも又驚いて見ていました。わかる!できる!使いこなせる!とお薦めしているので、楽しんで頂けるテキストです。私も目を通して感じたことは、年齢層も幅広く愛読して頂ける本であると実感しました。どうぞよろしくお願いします。
今年も金沢はお天気に恵まれ、喜びのもと茶事を終えることができました。いつも反省点は尽きないながら、みなさんの笑顔に支えられています。寄り付きの人形飾りは、舞台が始まる前、演奏者の思い思いの表情を巧みに描がいた創作人形。金沢在住の人形作家・明石雅子さんの大作を拝借いたしました。眼鏡もペットボトルから蓋までも細かい細工で髪形は糸を染めて結い上げるそうです。手足指までも自由に動きみじまえを整えるという手の込んだ古縮緬の作品です。私は重陽のお席に、この大オーケストラの音が聴こえるようになどと思い演出しました。




懐石の料理も少し紹介します。かますの褄折れ幽庵焼きは油ののりもよく溶けるような口当たりが印象的です。


スーパー満月のお煮物椀は玉子豆腐。すっぽんのスープで固めてあるのでしっかり箸で摘めて中ある〝すっぽんの身”もコラーゲン満点のご馳走です。あしらいの芽葱はススキに見立てあるので〝武蔵野椀”とでも名付けるといいでしょう。

八寸は毎年定番の虫籠の中に銀杏・車海老の海のもの・山のものが盛り付けてあります。この趣向は驚きがあるようで評判の良い献立となっています。

今回炊き上げた米は、信州飯山の湧水で育ったという金賞を2回受賞したというブランド米・甘みとほどよい粘りが印象的な一品。今回は炊き上がりのタイミングに集中したので時間差の味の変化も毎回の合格点であったと感じます。

本席のお花は菊の薬玉。仏具の飾り金具に飾りました。菊を表現するお席の愉しみは格別です。全体のバランスに名残を表現することで緩急がつき、はんなりと、また締まるものです。


本席の主菓子は、時期の栗金団がご馳走です。菊の置き揚げの三方に和製モンブランとでも申しましょうか?まったりと、どこまで食べても栗でございます。金沢吉はしさんの銘菓です。
薄茶席は、橘屋友七の竹根・四君子蒔絵に名月豆・雁煎餅・雁も飛来する時期となりました。吉はしさんの干菓子より。

薄茶席の花は、置き揚げ菊・東菊にあけび・山葡萄などの釣るが流れています。金沢も夏の日照りと長雨・また強風と気象条件は、はなはだしく悪く山の花は大きなダメージをこうむったようです。

本席の茶席はいつものように濃茶を練る音がさわさわと聞こえ香高い葉茶の香りに包まれています。幸せとはこういう時の一会なのでありましょう。喜びを共有できたこと嬉しい限りです。




重陽で飾った菊のキモノは大正時代の縫いです。若いお嬢さまにお似合いなので、ちょっと羽織りました。小柄な方なのでよく似合います。これからの人生に幸多かれと願います。


娘の応援もあり今回は半東は3人で行いよい思い出になったように思います。娘も長い滞在でしたが、楽しそうに手伝ってくれて嬉しかったです。
石浦神社の前を通ると花嫁行列に出会いました。赤い鳥居をくぐり新郎新婦は巫女の先導に従い歩いていく。しっとりとした雨あがりは門出にふさわしい光景です。


街を歩いているとあちこち紅葉も始まっています。今年の照り葉は色鮮やかで良い兆しです。観光客に混じりの散策も楽しい!


帰えり道、中村酒造の美術館へ行きました。秋の茶道具の展覧をしています。こじんまりとした美術館なので疲れない。時雨に濡れた庭園の景色も素晴らしい。酒蔵は金沢の老舗酒造会社で、文政年間の創業。中村酒造は金沢の文化・風習と食を大切に守りながら酒づくりに取り組んでいる蔵元です。酒づくりの水は白山を源とする名流手取川の伏流水でやや軟水。その醸したお酒は穏やかに繊細と言われています。加賀は水が良いので酒蔵は多くいずれも美味なる銘酒です。


10月12日は久しぶりにゆっくりした時間を過ごしました。明日で6回目の茶会も終わり大きな山を登ったような安心感を得ています。茶事の回数が多いのは20代から30代の以来の経験です。今日は娘が手伝ってくれったお礼のサービスを兼ねて〝銭屋さん”の料理を相伴に行きました。昨日ご主人から美味しいすっぽん料理の話を伺い行きたくなった次第の贅沢です。



すっぽんの「ツメ煮」これは醤油、みりん、「すっぽん」から取った出汁、昆布出汁などを煮詰めたタレで煮る料理です。片足と筋肉の部分・皮が煮てあります。皮は、ことの他美味しくコラーゲンたっぷりです。松茸のフライも初めて食べました。


のどぐろのお腹も松茸で膨らんでいます。後は「松茸鱧しゃぶ」と今年は、松茸が豊作なので堪能しました。たっぷりの松茸ご飯なのでお土産の持ち帰りがあり良いサービスとなりました。


五節句の中で一番親しみのない節句が重陽であると思います。しかし中国から日本へ伝わったのは平安時代と歴史は古く宮中の儀式として貴族文化に深く根付いたお節句ひとつです。菊の花に真綿を被せて朝露に濡らす〝着せ綿”の習いは、体にこすり付けることから現代の化粧水のような役割があったと思います。また天皇が臣下に菊に浸した酒を下賜して薬効効果を授け長寿を願った話などは有名です。ここ加賀には菊にまつわる伝説も多く、手取川の上流は、昔から岩菊・リュウノ菊・ヤマシロ菊などの野生菊が群生していて、その滴る露を受けて流れる川の水は菊水として尊ばれ今でも美味なる酒蔵も発展しているので能の菊慈童と共通した話です。


そうした菊の花には特別の霊力があるので不老長寿と結び付いたのでしょう。私の茶会でも様々に菊尽くしを表現してみなさまと楽しんでいます。本来9月9日「九」という陽の数が重なることから重陽と呼ばれるようになり陽の極みである「九」が重なる日はめでたいと伝えられています。私ごとですが金沢を舞台にした茶も九年目、立礼席も「九游」と名付け今年九年で終止符が打たれることは誠にめでたいことと感じています。私もひと時〝菊酒”をしたみながら健康の維持に努めなければと思っています。茶事も本調子となり不安も解消されて日々を満喫しています。